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Scene.19

LIFESTYLE INTERVIEW #6

YASUYUKI KITA

基準を、静かに引き上げる。
— KWDとMBSが続けるものづくり Vol.1

「見せ方が上手いもの」ではなく、「中身が強いもの」がきちんと評価される世界をつくりたい。そう語る喜多さんは、KWD立ち上げ当初からブランドの内側に入り、素材の強さを生活者の体験へと翻訳してきました。
Green Down Projectで培った“続く仕組み”への視点。0→1を形にするときに立ち返る「体験」と「理由」という軸。そして、流行に寄せるのではなく、基準を上げるという姿勢。
前編では、KWDの原点と、喜多さんの思想に迫ります。

素材を、体験へと翻訳する。

KWDとMBSの関係、MBSがしていることを教えてください。

KWDは、「河田フェザー」という羽毛原料メーカーの強みを、生活者の体験へと翻訳していくブランドだと思っています。MILKBOTTLE SHAKERS (MBS) は、その翻訳の“設計図”をつくる役割です。
具体的には、ブランドの方向性を言語化して整えたり、商品企画の筋道を描いたり、外部パートナー(小売・メディア・クリエイター)とつなぐところまで含めて、“0→1を現場で成立させる”ためのディレクションを行っています。
「いい素材を、いい商品にする」だけではなく、なぜそれを今つくるのか。誰に、どう届くべきか。そこまで含めて設計し、チームが迷わず走れる状態をつくること。KWDに対しては、外から来た制作会社というより、ブランドの内側にいる編集者に近い感覚かもしれません。

“中身が強いもの”を、きちんと伝えたかった。

KWD立ち上げ当初、どんな想いで関わり始めたのかを教えてください。

最初に惹かれたのは、河田フェザーさんが持つ“素材としての圧倒的な信頼”でした。
でも、それ以上に大きかったのは、「本当にいいものを、きちんと未来に残したい」という空気感です。
当時の僕は、数多くのブランドや企画を見てきた中で、“見せ方が上手いもの”よりも、“中身が強いもの”が正当に評価される世界をつくりたいと感じていました。
KWDには、その芯になり得るものが最初からあった。だからこそ、「外から盛る」のではなく、もともと備わっている強さを、ちゃんと伝わる形に整えたい。そんな想いで関わり始めました。
立ち上げ当初の空気を一言で表すなら、「焦って売るためのブランド」ではなく、長く愛される前提でつくるブランド。その姿勢に、僕自身が強く惹かれたのだと思います。

“正しい”だけで終わらせない。続く仕組みにする。

前職時代、Green Down Projectの立ち上げに関わったとき、いちばん大切にしていたことは何でしたか?

Green Down Projectに関わっていた頃は、サステナブルがまだ“当たり前”ではない時代でした。
意義を語る前に、まずは「やれる形」に落とし込む必要があったと思います。そのとき、いちばん大切にしていたのは、“正しいこと”をやるだけで終わらせず、きちんと回る仕組みにすることでした。
回収や再生のストーリーは語れても、品質が落ちたり、供給が不安定になったりすれば、結局は続きません。
続かないサステナブルには意味がない。さらに、競合も含めて多くの企業が関わるプロジェクトだったからこそ、立場の違いを越えて調和できるルールや運用を、丁寧に設計することも意識していました。
環境配慮を“旗”として掲げるよりも、品質と安定性を前提にした循環をつくること。選ばれ続けることこそが、いちばん強いサステナブルだと考えていました。

難しい局面でこそ、関係性の強さが見える。

当時の取り組みを通して生まれた関係性が、今のKWDにつながっていると感じる瞬間はありますか?

はい、あります。むしろ、その関係性の強さを実感するのは、判断が難しい局面です。
僕らMBSは、ブランディングやものづくりに対して「こうあるべき」という価値観がはっきりしているチームだと思います。細部までこだわりを持って進める分、一般的な進行だけでは拾いきれない論点や、丁寧に言葉にしてすり合わせるべき場面も多くなります。そのこだわりは、ときに“手間”を増やしてしまうこともあるかもしれません。
それでもKWD、そして河田フェザーの皆さんは、こちらの意図を急いで結論にせず、丁寧に受け止めてくださる。同じ目線で考え、一緒に「より良い形」を探してくださるんです。
そこにはいつも、「いいものを残すために、今なにを選ぶべきか」という共通の軸があると感じています。僕らとしても、河田フェザーが積み上げてきた本物の価値を、単なる“今の売れ方”に閉じず、後世まできちんと残していきたい。そのために、誠実に伴走し続けたいと思っています。
そして何より、KWDの品質を、もっと多くの人に手に取ってほしい。“ちゃんとしたもの”が、ちゃんと選ばれる体験を、一緒に増やしていけたらと思っています。

“気づけば、これを選んでいる。”

これまで本当にたくさんのダウンを着てきた中で、それでもKWDを推したいと思う理由はどこにありますか?

KWDのダウンは、着た瞬間にわかる派手さというより、
「気づいたら毎回これを手に取っている」タイプの強さがあると思っています。
軽さ、暖かさ、着心地、見え方。生活の中でのストレスが少なく、全体のバランスが崩れない。
さらに言うと、大人が無理なく品よく見えるところも大きいですね。
KWDは“流行に寄せる”というより、“基準を上げる”方向に向かっているブランドだと思っています。
そこに、僕は信頼を感じています。
「今年っぽい」よりも、「来年も着たい」をちゃんとつくっている。だから推したいし、続いてほしいと思えるんです。

“新しいか”より、“基準を更新できているか”。

アイディアを0から形にするとき、いつも自分の中で立ち返っている軸はありますか?

僕はいつも「体験」と「理由」に立ち返ります。
それは、誰の生活のどの瞬間を良くするのか。言葉で説明しなくても、手触りで伝わるか。作り手の都合ではなく、使い手の身体にきちんと落ちるか。
アイデアのきっかけは、世の中の課題や違和感から始まることが多いです。でも、解きたいのは“経済的な豊かさ”だけではない。心が豊かになるかどうか、そこまで届いているかを考えます。
その視点を、これまで経験してきたファッションやクリエイティブの言語で捉え直し、形にしていく感覚です。
そしてもうひとつ、自分に問いかけるのが、「それは“新しい”のか」ではなく、“基準を更新できているか”ということ。
派手な発明よりも、当たり前の水準を静かに引き上げること。昨日まで妥協していた部分を、妥協しなくていい状態にすること。僕にとってのイノベーションは、そこに近いと思っています。

最後は、少しだけ“妄想”です。「こんなものがあったらいいな」「こんな体験ができたらいいな」と想像して、まずは動いてみる。すると、自分ひとりでは出会えなかった人や業界とつながり、共創が生まれる。
その結果として、面白い形が“誕生する”ことがある。
だから僕にとって0→1は、自分ひとりの力ではありません。周囲の皆さんがいて初めて成立するゼロイチです。
いまITやテクノロジーの領域で共創できているのも、まさにそうした積み重ねから始まりました。

喜多泰之 / YASUYUKI KITA

大阪府出身。アパレル一家に生まれ、幼い頃からインポートの洋服や文化に囲まれて育つ。大学在学中に大手セレクトショップを経験後、新卒入社。PRやバイヤー、フェス企画など複数ポストを担い、環境・社会課題に向き合う新規プロジェクトも多数推進。2019年にソーシャルクリエイティブカンパニー「株式会社MILKBOTTLE SHAKERS」設立。Green Down Projectでソーシャルデザインディレクターを務め、2021年に「Loopach」をローンチ。

Instagram : https://www.instagram.com/milk_no_kita/
KWDコメント

前編では、KWD立ち上げの原点や、“中身が強いものを残す”という思想について伺いました。
後編では、チームづくりや「表」と「裏」の役割、そして20代の自分へのメッセージまで、喜多さんの“人としての軸”にさらに迫ります。
基準を引き上げ続けるために、いま何を選び、どう続けていくのか。
次回もぜひご覧ください。